連載記事:編集の話(第2回)

同人音声を作るなら

前回の記事はこちら

音声データの編集作業

 前回の記事で無事に収録を依頼できた(はず)と思いますので、この記事は納品データを受け取った後のお話になります。同人音声作品をリリースする為に必要となる編集作業の内容と、その必要性を説明していきます。

 まずはじめに、声優さんから納品されてきた音声データを音声作品としてリリースするまでには、大きく分けて3種類の編集作業が必要になります。

  1. トラック分割
  2. 音量調整
  3. ノイズ除去

 順不同ですが、個人的にてこずるものを後回しにして解説しています(説明が長くなるので・・・)。

1. トラック分割

 大前提として、声優さんから納品されてくる音声データは、事前に依頼(有償のケースがほとんど)しない限り基本的に1ファイルです。というのも、声優さんの仕事は「提示された台本にそった音声を取り決めた方式で収録し、取り決めたデータ形式で納品すること」なので、それ以外の作業は別途取り決めない限り範疇外です。

 先ほどの前提を理解したうえで、まったく場面転換の無いショートシナリオ(10分程度)でしたら、極論この作業は不要なのですが、数十分のシナリオなら1回かそこらは場面転換するのではないでしょうか。そうなると当然、場面ごとにファイルが分かれていた方が聞きやすいですから、この作業はほぼ必須、という事になります。ただ、大げさに「編集」なんて言ってますが、単に音声ファイルを場面ごとに分割すればいいだけですし、多くてもせいぜい十数トラック位しか無いかと思いますので、ツールの使い方さえ覚えてしまえばそれほど時間のかからない作業ではあります。

 ついでと言ってはなんですが、分割する際には、聴きやすいように前後に適度な余白(1~2秒ほどの無音部)を挿入すると吉です。だって、再生と同時にセリフが聞こえ始めるより、再生ボタンを押して1秒後くらいから音が鳴りだしたほうが、せせこましくないですよね?

2. 音量調整

 声優さんは、あなたの描いたシナリオに沿った演技でセリフを読み上げます。訓練を積んだアナウンサーが、ニュース原稿を読み上げるがごとく一定の音量でしゃべるわけではありません。熱いセリフを読み上げる際には想定以上に力(声量)が入ってしまったり、恥じらいを表すために、もにょもにょと口ごもる場面では思ったよりも声が小さくなってしまい、結果としてそのままでは聞き取りづらくなったりもします。そもそも、貴方が想定している声の大きさと、声優さんが台本からよみとった声の大きさが完璧に一致しているわけではありません。また、宅禄という性質上、全てのセリフを一気には収録できず日や週を跨ぐこともあり、そこには多少の音量差も出てきます。なにより、完璧にセッティングされたスタジオで収録しているのではありませんから、声優さんの収録環境によっては全体的に声が小さめに入ることだって十分ありえます。

 これらの事情を加味し、貴方が小さすぎると感じるセリフは音量を上げ、明らかに大きすぎる所は音量を下げ、トラック全体のバランスを考え最も聞きやすいと思える状態に調整してやるのが、この作業の主な役目です。個人の感想を多分に含み恐縮なのですが、音量が必要以上に頻繁に振れると聞いていて疲れますし、同じくらいの大きさで聞こえてくるべきセリフが、次の瞬間に意味も無く小さくなったりすると、「あれ? いきなり声が小さくなったけど、もしかして距離が遠くなった事を表現してる? でも移動したような素振りも無いし」とか考えてしまい、没入感が削がれます。

 もっと細かい話をするなら、「ピーク音量」をどのセリフに持ってくるか、作品全体の音量レベルをどこに設定するか、などそれこそ切りありがませんので、ここでは音量調整の必要性をご理解頂ければと思います。

小休止

 オオトリを飾るノイズ除去の話へと進む前に、ちょっと休憩しましょう。

ふぅ。

3. ノイズ除去

 最大の難関です。これといった正解が無く、どこまでこだわるのかという話なので、ある意味「沼」です。私の場合、編集している時間のほぼすべてはこの作業に費やされていて、10分のシーンを編集するのに1時間かかる時もあります。ふと、自分は何をやってるんだろうと我に返り、マジで心が折れそうになる時があります・・・。

 さて、一口にノイズと言ってもそれは多岐にわたり、大きく分けるなら下記でしょうか。

  • ルームノイズ(環境音とも言う)
  • リップノイズ
  • それ以外の予期せぬノイズ

 ルームノイズについてですが、大前提として、全く音の無い空間は声優さんが宅禄するシーンにおいて存在しないです。現代社会において、普通の部屋であれば家電や空調などを筆頭に、なんらかの「普段は意識していない音」が流れ続けていて、息遣いまでしっかりと捉えることのできる高性能マイクで収録を行うと、これらの音(ブーンとかサーという音)も想像以上にがっつりと収録されてしまいます。声優さんの方でも、空調を一旦止めるなど、なみなみならぬ努力をしてくれるケースもありますが、それでも無音にはなりませんし、そもそもPCで収録を行っているならファンの動作音も立派(?)な環境音となりますから、どの程度のノイズが入るかは声優さんの収録環境次第です。

 環境音が0にはならない以上、この音を許容範囲まで低減してやる必要がでてきます。使うツールですが、製品の有名どころでは「iZotope社のRXシリーズ」※1 でしょうか。フリーソフトであれば「Audacity」あたりが有名です。ツールの使い方は、調べて頂ければ日本語での解説がいくらでも出てきますので、そちらをご参照ください。RXは公式による使い方動画がとても丁寧で参考になりますし、Audacityであれば先人が沢山の解説記事を公開してくれていますので、どちらを選んでも困らないとは思います。

 リップノイズとは舌や唇の動きで誘発される、プチッとかペチャッという比較的短い音の総称で、高性能マイクで収録すると顕著に表れます。発生頻度に個人差はありますが、意識してこれを0にすることは厳しく、じっくりとセリフを聞いている時にこれが発生するととにかく耳ざわりなので、極力これを除去してやる必要があります。前出のRXシリーズには、これらの音を除去する専用の機能が備わっているエディションがありますので、手作業での除去に絶望したら購入を検討してみて下さい。とはいえ、完璧に除去できるわけではありませんので過度な期待は禁物です。全部手動で取るよりは明らかに楽ができる、くらいの心構えで良いかと思います。

 それ以外のノイズの代表例は、声優さんが身動きした際に衣服が擦れる音や、床がきしむ音、生き物の鳴き声などなど、枚挙にいとまがありませんが、要は突発的に発生する音です。物語に集中しているときに、これらの音が聞こえてしまうと一気に興ざめしてしまいますので、全力で除去する必要があります。声優さんの方でも、明らかに異音が入ってしまった(セリフにかぶった)と認識できた際には録り直してくれるケースがほとんどですが、気づかない場合もそれなりにあります。かなり派手目にセリフにかぶっていた場合、編集での除去は困難ですので理由を説明してリテイク(該当のセリフを再収録してもらう事)をお願いすることになりますが、軽微な物であれば聴いていて違和感のないレベルまで低減できるケースも少なくありません。なにより、リテイクしたセリフはどうしても前後のセリフとのつながりに違和感が出てきますので、編集でなんとかなるなら極力リテイクは避けるべきです。

 ご説明した各種ノイズですが、完璧に除去すると少なからず音声に影響が出ます。ルームノイズであれば除去しすぎるとセリフ間の息遣い等へ確実に影響が出ますし、異音であればぎりぎり目立たない様、控えめに除去したとしてもセリフが若干聞き取りづらくなったりします。なので、ノイズは「除去」というより「低減」と考えた方が気が楽になるかと思います。結局のところ「バランスが大事」という話にしかならないのですが、この辺りは試行錯誤や経験にて、どの程度が許容範囲か自分なりに見極めていくしかないと思います。

※1 この記事を執筆している時点での最新版であるRX10では、一番価格の安い「RX10 Elements」ではエディタ機能(波形を可視化して手作業でのノイズ取りや、音量調整・ファイルの分割など簡単な編集を行える機能)が使えなくなっている様です。公式の動画製品紹介ページの注意書き「Plug-inのみでの動作となります」を見た限り、私はそう理解しました。間違ってたらコメントなどで教えてください。私が初めて手に取ったRXシリーズである「RX8 Elements」ではエディタが使えていたため、これ1本で「全体のノイズ除去」「手作業での細かいノイズ除去」「音量調整」「ファイル分割」が全て行えていたので残念でなりません。

それ以外にも

 今回は基本的な編集作業に的を絞った話でしたが、これ以外にも編集で手を加える必要があるケースはままあります。一例をあげるなら、声が想定以上に反響してしまっている場合です。極端な言い方ですと、「お風呂場で声を出したような雰囲気」とお伝えすれば話が早いかと思いますが、スピーカーでは気にならなくてもイヤホンなどでがっつり聞くと目立ったりします。とはいえ、これも宅禄という制限があるので声優さんの収録環境次第となり、許容できない位の状態でしたら編集で低減してやる必要が出てきます。幸か不幸か、より良い状態で作品をリリースするために、できる事は無限にあるのです。

次回の話

 次回は、リテイクについてお話したと思います。今回に輪をかけて主観的な話になりますので、そういう考え方もあるのか、程度で受け止めて頂ければ幸いです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました