好き嫌いの話
初めにお伝えしておきますが、私はリテイクが大嫌いです。だって、納期が延びます。手元に大部分は問題の無い音声データがあるのに、取引が完了していない(=使用許諾が与えられていない状態)ためデモ版の公開もままなりません。このお預け感がどうにも我慢ならないのですが、嫌だ嫌だと言っていても話が進みませんので、本記事の趣旨である「リテイクが発生しそうな状況において、それとどう向き合うか」というお話をしたいと思います。
リテイクのデメリット
まず間違いなく、リテイク前とリテイク後の読み上げでは雰囲気が変わります。このため、前後に大きな間のあるセリフならなんとでもなるのですが、例えば下記の様な一連のセリフですと目も当てられません。
1行目 あれ?
2行目 これってやっぱり「やきもち」なのかな? ←この行がリテイク
3行目 いいなぁ、って思っちゃいました
声優さんも頑張って前後のセリフと違和感の出ない様に雰囲気を寄せてくれますが、イヤホンなどでがっつりと聴けば一発で分かるくらいの違和感が出る場合が少なくありません。主な理由は下記です。
- リテイクは一通り収録が終わった後なので、該当部分を収録してから日数が経過している
- 地声ならともかく、声を作って演技をしているので完璧に同じ雰囲気を再現できない
「じゃぁ、前後も撮り直してもらえばいいじゃん」という話になるかと思いますが、上記の例は簡潔に説明するため3行だけにしてあり、普通はもっと長いです。仮に10行くらいだったとするなら、それをすべて撮り直す労力はかなりの物ですし、宅禄という制限上ノイズとの闘いもあります。演技のブレなども考慮すると、「リテイクの原因となっていたセリフはOKになったけど、撮り直した他のセリフで問題発生」という最悪の循環に陥り、いつまでたっても収録が終わりません。ですので、ほとんどの宅禄声優さんは「リテイクは行単位」が基本となっています。要は「このセリフがだめだから、前後も含めて撮り直してね」とはならない、ということです。ただし、追加費用で前後のセリフも含めたリテイクを対応していれるケースはあるかと思います。
リテイクをお願いするかどうかは、このデメリットと向き合いながら判断していくことになります。
リテイクの原因と対応方法
割と多いのは、「セリフの抜けや読み間違い」「セリフにノイズがかぶっている」の2パターンです。60分くらいの音声作品を作るなら、数か所は確実に発生すると考えて下さい。声優さんも人間ですから、どんなに注意してもVOICEROIDのごとく完璧にセリフを読み上げられるわけではありませんし、前の記事でお伝えした通り、宅禄をしていれば気づかないうちに異音がかぶってしまうこともままありますので、致し方のない事です。
セリフ抜けや読み間違
場合によっては話がかみ合わなくなったり意味が通らなくなったりしますので、とても深刻な状況です。リテイクを避ける為に取れる方法はいくつかありますが、「読み間違い」についは、その単語をばっさりと切り捨ててしまっても意味が通るかどうか、まずは検討してみましょう。前後のセリフの流れから、その単語(もしくはその行自体)が必須ではないこともしばしばありますので、慌てず騒がず、一度冷静になってシナリオを読み返すことが大切です。要は視聴者に状況がちゃんと伝わるなら、わざわざ違和感の出る可能性のあるリテイクしたセリフに差し替える必要性は低い、ということです。「セリフ抜け」についても基本的な考え方は同様です。その言葉が無いと物語やキャラクタの理解に致命的な欠陥が生じるのか、しっかりと考えましょう。
初めのうちは、セリフの間違いを見つけるとあたふたしてしまいがちですので、冷静さを取り戻せていないようなら、1日くらい寝かせるのもありだと私は思います。冷静になって、デメリットもしっかりと考慮した上で「リテイクしかない」となったらもう腹をくくりましょう。セリフ抜けや読み間違いを誘発する、分かりにくい書式で台本を書いてしまった自分を呪いつつ、該当箇所と理由を丁寧に説明してリテイクを依頼します。間違っても「ちゃんと読んでくれないお前が悪い」とか考えない様に。なにより声優さん自身がリテイクを最も望んでいない(はず)ですので、手を抜く人なんて居ません。こと同人活動においては、色々な人の協力を得て作品を作り上げますので、お互いに真摯であることを前提に行動しましょう。
セリフにノイズがかぶっている
これはもう「なんとしてでも除去してやる」くらいの心意気で臨みましょう。試行錯誤を繰り返し経験を積むことでノイズ除去の腕が上がれば、最初の頃は想像もしていなかったノイズにも対応できるようになります。「単語は聞き取りづらくなったがノイズはだいぶ目立たない状態」なのか、「違和感を覚悟でリテイクしたノイズの無いセリフに差し替える」のか、どちらがより貴方の望むものなのか、しっかりと考えましょう。
持てる手段を尽くした上で、どうしようもないと判断したらリテイクを依頼することになるのですが、これは「セリフの抜けや読み間違い」に輪をかけて詳細に理由を説明する必要があります。というのも、何をもってノイズとするのかは人それぞれで、再生環境の差もありますので、極端な例ですが「貴方には聞こえている音が、声優さんには聞こえていない」場合もあります。仮に聞こえていたとしも、それを「ノイズと捉えていない」パターンもあります。細かい話をすれば切りが無いですが、1つの音声ファイルを聞いたときに何をどう理解するかは人それぞれ、という事を前提とした行動を心掛けましょう。依頼文の一例ですが、
シーン1の2行目「これってやっぱり」というセリフ(納品データの1分32秒あたり)に、「パキッ」っという異音がかぶっているためセリフが聞き取りづらく、異音が大きすぎるので編集での対応も困難な状態です。
と伝えれば、まずは問題無いと思います。これは私の体験談ですが、ノイズでのリテイクを依頼した際、声優さんからの回答は、
「ご指摘の箇所を確認しましたが、私にはノイズと思われる音は聞こえませんでした。なるべくノイズに配慮してセリフをリテイクしましたが、きちんと対応できているかの判断が私のほうではできませんので、添付データをご確認ください。」
でした。頭の下がる思いです。
コーヒーブレイク
ここからは重い話となりますので、このあたりで小休止を推奨しております。

「演技がイメージと違う」問題
非常にやっかいな問題です。演技は前後の流れに沿って行われますので影響範囲が大きく、読み間違いやノイズなどと違い、行単位でのリテイクでは済まないパターンがほとんどです。認識不一致を誘発する極端な例をあげますと、下記の台本があった時、
(泣きながら)こんなの、もう無理です
どの程度の泣き方がイメージ通りなのか、声優さんは分からない、ということです。実際にはこの書き方でも、前後の流れもあり派手にずれることはあまりないのですが、「悲壮感を漂わせてすすり泣く」イメージなのか、「わんわん泣きながら」なのか、これを読んでいる人でも受け取り方は様々だと思います。仮に、すすり泣く演技をイメージしていた場合、ここで大泣きされてしまうと以降の演技も全てずれてしまいシーン丸ごとリテイクせざるを得ない事態に発展しますが、「イメージと違うから、こういう感じでリテイクをお願いします」と依頼しても、すんなりと受理されることは稀です。「だったら最初からそう書いておけよ」という話です。なので、イメージの不一致を極力発生させない為の手立てを具体的にご説明します。
今すぐにでも始められることですと、身も蓋も無い話ですが「なるべく伝わりやすい書き方を心掛ける」です。先ほどの例なら、
(すすり泣きながら)こんなの、ううぅ、もう、無理です、うっ、ううぅ
と書きましょう。これで、少なくとも大泣きの演技で納品されることはありません。初めて台本を書かれている場合は、軽くでも見直してみてください。より良い結果をつかみ取るためには、労力を惜しんではいけないのです。
もっと効果の見込める手段もありますが、これには少々費用がかかります。「サンプル発注」というやつです。こだわりたいポイントや、大幅にずれる可能性があるセリフを台本から抜粋し、正式発注する前に、別依頼として収録&納品をしてもらう方法です。もちろん有償(字数次第ですが、抜粋なので500円~1000円位)ですが、納品されてきたサンプルを基準に「もっとこうして下さい」など具体的な調整ができますので後顧の憂いはありません。声優さんの演技力や収録方法、納品フォーマットが適切かも事前に確認できるので、一石三鳥くらいの価値があります。私の場合、初めて依頼する声優さんには、極力この手段を採用するようにしています。
まとめると、
- めんどくさがらずに、台本に演技指示をしっかりと書く
- ずれそうなときは、擬音なども交えて雰囲気が伝わる様に書く
- どうしてもずれたくない部分は、サンプル発注で本収録前に演技の調整を行う
となります。この記事が皆さんの音声作品を円滑に完成させるための一助になれば幸いです。
今後の話
都合3つの記事に分けてお伝えしてきましたが、ここまでお読みいただければ、無事に音声収録を発注し、納得の行く納品データを手にできている(はず)と思いますので、次回の記事は、カバーアートのお話にするか、一休みして大手2サイトの違いについてお話するか、どちらかになると思います。それではまた。
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