前回から少し時間が空いてしまって恐縮なのですが、今回は「同人音声を作るって実際どうやってるの?」という具体的なお話です。
音声編集&ノイズ除去Tool
iZotope社の RX10 を使ってます。というか、これが無いとさすがにキツイです。RX10 は機能の少ない(=価格の安い)順に、Elements ⇒ Standard ⇒ Advanced の3種類が存在しており、どれを選べば良いのかですが、いままで10本以上の同人音声をちくちくと編集してきた経験上、RX10 Standard さえあれば問題ありません。RX10 Elements はそもそもエディタ(音声データを可視化して、ファイル分割やmp3化、音量調整や無音部の挿入と削除、自動で除去しきれなかったノイズのカットなどを目視&手動で総合的に行う機能)が使えないため論外ですし、RX10 Advanced ではさすがに同人音声の編集という意味ではToo Muchだと感じました。Standard はセール価格で3万円位、セール中にクロスグレードを駆使すれば2万円以下で手に入ったりもします。これさえ手に入れればノイズ除去や編集作業が「劇的」に短縮されます。正直、私はこれが無いともう編集する気がおきません。RX10 Advanced が全くの無意味という分けではないのですが、さすがに最上位のエディションですのでセール価格でも10万円くらいする高級品なうえ、Standard との差額分に見合うだけ編集時間がさらに短縮されるかといえばNOです。編集についやす時間の短縮という観点から効果を視覚的に表現すると、フリーソフトでがんばる環境を★☆☆☆☆とするなら、RX10 Standard は★★★★☆、Advanced は★★★★★といった感じです。
よく使う機能ですが、De-hum(ブーンというハムノイズ除去:かなり高性能), De-clip(音割れの修復:短時間の音割れであればかなり救える), Voice De-noise(サーという環境音低減:とりあえず軽めに掛けとけば耳が幸せ), Mouth De-click(セリフにかぶったプチッとかペチャっというリップノイズ除去:RXの真骨頂), Loudness Control(全体の音量調整:すごい便利) あたりになります。とりあえずこの5機能を一発だけ使っておけば、それなりの品質であっというまに仕上がります。時間にしてわずか5分程度です。上記で対応できないやっかいなノイズには、De-click, De-crackle, De-reverb, De-plosive, De-ess, Spectral De-noise, Spectral Repair あたりを部分的に使っていく事になりますが、これらも全て Standard で利用可能です。
前述の通り RX10 Standard はかなり万能なので、これ1本あれば音声作品を十分にリリース可能なのですが、正直な所、一番対応困難なのは「音が反響してしまっている音声データ」です。大げさに言えば「お風呂で歌っている時みたい」な状態です。これの除去には、Standard に含まれる De-reverb はもちろんのこと、Advanced のみに含まれる Dialogue De-reverb を使ってもあまりいい結果が得られません。もちろんある程度低減はできるのですが、確実に元のセリフと聴き比べると違和感が出ます。なので、私は声優さんのサンプル音声を聴く際には「どの程度音が反響する環境で収録しているのか」を重視していたりします。注)スピーカーで聞いてみてOKだと感じても、イヤホンでちゃんと聞くと反響が凄く目立ったりもします。
ここまでのまとめになりますが、同人音声を作る上でタイムイズマネーの観点から、RX10 Standard 入手の為に数万円の出費を覚悟する事を強くお勧めします。課金や飲みを少しだけ我慢して、是非手に入れて下さい。

実際の製作費
松竹梅、いろいろあるかと思いますが、当サークルでリリースした約1時間の音声作品(定価1,100円)を例にかかった費用ご説明しますと、内訳は下記です。
- 音声製作費:17,100円(6,840字・単価2.5円)
- カバーアート原画:11,000円
- 台本、音声編集、カバーアート装丁:0円(内製)
合計金額は28,100円です。本作は尺も短く、意中の声優さん及び作品のイメージにあった作風のイラストレーターさんがこの価格帯でお仕事を募集されていましたので、音声作品1本の製作費としては比較的コンパクトにまとまっています。定価の3割引き(770円)で販売すると、大手サイトの場合1本当たり400円の利益になりますので、製造原価回収の為には販売数70本が損益分岐点なる計算です。当サークルの別の音声作品では製作費が10万円ほどかかっており、定価は同じく1,100円ですので、こちらは250本が分岐点になります。770円で1,000本売る前提であれば、40万円が製作費のリミットという事になります。
当サークルが内製で行っている部分ですが、
- 台本作成:1文字 1円~
- 大まかなノイズ除去や整音:10分 2,000円~
- カバーアート装丁:5,000円~
くらいが見かけたことのある最安価格かと思います。先ほど例に出した約1時間の音声作品を全て外注したとすると、台本作成に7,000円、音声編集に12,000円、カバーアート装丁に5,000円となりますので、24,000円の追加原価が発生します。都合52,000円の製作費になりますので、130本あたりが販売目標になってきます。
あくまで個人レベルの創作活動であれば、一旦は100本を販売目標に、製作費4万円程度で考えるのがお勧めです。身も蓋ない言い方で恐縮なのですが、成人向け音声作品においては、数多ある音声作品と見劣りしないカバーアートさえ用意できれば100本という数字はそれほど難しくない印象があります。ゼロから手探りで作り始めた当サークルの音声作品も、有難いことに発売開始から1年を待たず販売本数100本を超えるものがちらほら存在します。極論ですが、製造原価さえ回収できるのであれば、あとは情熱次第で延々と音声作品を作り続けられますので、内製で賄える範囲をいかに増やすかは大事な試みだと思います。
予算配分の目安ですが、音声に2万円、絵に2万円くらいが良い塩梅かと思います。音声についは、2万円あれば単価3円の声優さんに依頼してもセリフ字数7,000程度の台本を音声化(40分前後の尺)できますので、大抵の事は表現できるかと思います。単価2円の方に依頼するのであれば1万字(60分程度の尺)まで使えますのでさらに多くのシチュエーションを盛り込んだり、より丁寧に物語を作る事ができます。絵についても、人物15,000円+背景5,000円くらいでお仕事を募集されている方は多くいらっしゃいますし、背景を数千円程度の素材集などでまかなうのであれば、浮いた費用を表情差分やタイトルロゴの製作などに回せます。表情差分もロゴも絶対に必要という分けではないのですが、制作側のエゴで言えば、あればとても嬉しいものです。
最後に効果音やBGMについてですが、最初のうちはフリー素材を使わせてもらいましょう。フリー素材の効果音で年齢制限のあるコンテンツに利用できるサイトは多くありませんが、それで十分な量の効果音素材を公開してくれています。特におすすめなのは、DLsiteが提供している無料の効果音素材です。
成人向けの同人音声作りにおいて、必要と思われるものが網羅されいます。しかも無料。大手サイトとはいえ運営側がこのような形でクリエイターを支援しているくれのは、とても有難い事だと思います。当サークルでもこの素材を積極的に使わせて頂いています。
前述のRXですが、SEやBGMを挿入することには向いていません。できなくは無いのですが現実的ではありませんので、これらの対応を実施するためには Audacity や Cakewalk を駆使する必要があります。当サークルでは、BandLabの Cakewalk(無償)とSteinberg社の Cubase(有償)を使用しています。SEやBGMの挿入程度であればどちらでも大丈夫です。特に Cubase については、音楽制作シーンにおいて国内外で高いシェアを獲得しているため、日本語での情報量も豊富です。
まとめ
長々とご説明してきましたが、いかがだったでしょうか。音声作品をリリースするためには先行投資的に2万円のRX代と4万円の製作費を用意する必要があります。どの程度回収できるか、あるいは利益がでるのかはセンスと運とやり方が大きくかかわるのでなんとも言えませんが、この記事を読んだ方々が音声作品を無事にリリースできることを祈っております。
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